カシオ fx-JP500

機種の説明

fx-JP500

2014年12月発売.「式通り入力」が可能,2 進, 16進数や論理演算が可能で統計機能も持つ機種で, 2015年4月時点で 2000円強程度の価格で で手に入れることができるので,学生に推奨できる機種です. 今までは2000円弱で購入できる同じカシオの fx-375ES やシャープの EL-509M がおすすめ機種だったのですが, 日本の関数電卓の雄,カシオが 中核機種の本格的なアップデートにとりかかった といえるでしょう.

最大の改良点はディスプレイです.192x63ドットと,fx-375ESと 比較して縦も横も約2倍の解像度に改良されました. 式通り入力表示(カシオでは数学自然表示と呼ぶ) が普及するには現状ではディプレイの解像度が大きく不足している と考えていたので非常に嬉しいアップデートです. 欲を言えばもっと解像度が欲しいですが,本機を使うと 以前の解像度の機種をにはもう戻れない,と感じるほどの 差があります.個人的にはこの点だけでも買いです. また,メニューでの日本語表示が可能になりました. メニューに入っての操作は覚えにくいので特に 初心者にうれしい改良点です.

本体のデザインは,これまでの関数電卓然としたものから一転して スクエアな今風のものに変更されました. 面積がほぼ同等のシャープ EL-509J に比べて明らかに薄く携帯性も良好です. 後述するようにキーアサインが変更されていますがキーの位置関係は fx-375ES と変更ありません. fx-375ES の記事で指摘していた各キーの遊びが小さくなり 高級感が増しました.

ただし,高級感を出すためか,わざわざ表面に細かいテクスチャが ついているのですがこれがキー脇の印刷と相性が悪いのです. 照明の反射のせいで読みにくいときがあり,少し傾けないと読めない ことがあります. 文字のスケールと干渉するような地模様をつけるなんて 何を考えているんだと思います.

キーアサインについても一般的によく使われるキーは 表(SHIFT を押さずに入力できる) にありますが. 情報理論で多用する [log□]が裏に回り, [SHIFT]を押して呼び出さなければならなくなったのは残念です.

メモリーに記憶させる機能の [STO] と 呼び出す機能の [RECALL] の表裏が fx-375ES とは逆になりました. 本機では [STO] はキー1回で機能しますが [RECALL] は [SHIFT] を押さなければいけません. ただし,[ALPHA] キーで変数を呼び出すなら1 回で済みます. これがあるから安心して RECALL 機能を裏に回したのでしょう.

RECALL と ALPHA

メモリー変数へ値を記録するのは STO 機能ですが, 逆にメモリー変数の値を利用するのためにはメジャーな日本製電卓では RECALL 機能と ALPHA 機能が用意されています. 本機のマニュアルによると式中にメモリー変数名を書き込むのは[ALPHA], メモリー変数に格納された値を画面に呼び出すのは[SHIFT][RECALL], と区別されていますが実際には ALPHA 機能の代わりに RECALL 機能を 使うこともできるようになっています. 自分は ALPHA は第 2 のSHIFTキーと割り切って, STO 機能の逆は RECALL 機能を使うというインターフェースのほうが わかりやすいと考えているので例題では RECALL 機能を使うことにしています.

多くの値をメモリに STO し,そのなかのどれかを RECALL したり使わなったり,という使い方ならば RECALL より STO が表にあるほうがいいことになります. 本機ではRECALL操作に入ると どのメモリにどんな値が格納されているかを一覧で表示してくれます. 本機の高い解像度を生かした機能といえます. 使うかどうかわからないけどとりあえず STO,みたいな 使い方も想定して,よく考えて設計されていると感じます. 初心者はそもそもメモリーを使うことにハードルを感じているようなので, メモリーの使用方法は少しでも簡単であるほうが良いです. 理想は EL-509M のように STO, RECALL 両方が表にあることですが, 最初の手順である STO が簡単になったのは歓迎すべき だと思います.

本サイトでは計算速度は評価の対象にしていませんが, 遠藤教授のページ の検証によると計算速度が大きく強化されているとのことです.

それでは例題を計算してみましょう.

以下のキーストローク表記では 各キーの上に黄色で印刷された機能を呼び出すキーを [SHIFT] と表記します. [SHIFT] キーの後に表記されるキーの名前は キーの表面に書いてある文字ではなくその機能名で表記します. つまりキーの上に黄色で印刷されている文字を表記します. 例えば [RECALL] は STO が表面に印刷されている キーの上に黄色で印刷されている機能なので, RECALL のキー入力は [SHIFT] [RECALL] と表記します.

log を使用する例題

まず手順 1. です. log に与える数をあらかじめ逆数で入力する,
(1/3)log23 + (2/3)log23/2
の式を計算します. 1/3 や 2/3 の括弧と乗算記号が省略できるので入力は

[1] [■/□] [3] [→] [SHIFT] [log□] [2] [→] [3] [→] [+] [2] [■/□] [3] [→] [SHIFT] [log□] [2] [→] [3] [■/□] [2]

メモリー A にストアします.

[STO] [A]

手順 2. はこれと同様ですが,第一項の log の 真数(5/4)の分母から抜けるのに[→] を一回,括弧から抜けるのにもう一回押す必要があるので こちらのほうが 1 ストロークだけ多くなります.

[4] [■/□] [5] [→] [SHIFT] [log□] [2] [→] [5] [■/□] [4] [→] [→] [+] [1] [■/□] [5] [→] [SHIFT] [log□] [2] [→] [5] [STO] [B]

レギュレーションに従って メモリー A に 4/3 を掛けたものとメモリー B に 1/4 を掛けたものとの 和をとれば完成です.積記号を省略できるので入力は以下のようになります.

[3] [■/□] [4] [→] [SHIFT] [RECALL] [A] [+] [1] [■/□] [4] [→] [SHIFT] [RECALL] [B] [=]

合計 65 ストロークになりました.[log□] キーが裏に回ったのが痛いです.

上の囲み記事「RECALLとALPHA」 に書いた自分ポリシーに従って [SHIFT][RECALL] を使っていますが,マニュアルに従って [ALPHA] を使うとこの例題のキーストロークは 63 になります.

2進,論理演算を使用する例題

本機の場合,10 進以外を扱うには一番最初に n 進計算モード に入る必要があります.以下のキーを入力します.

[MENU] [3]

画面上段左に Dec (10進)と表示されているのを確認ます. 10進以外であれば DEC キー(表面に x2 が印刷されているキー)を押すと 10 進モードになります. 今回は入力も出力も 10 進なので最初から最後まで 10 進モードで 計算を進め,途中で 2 進で数値を入力する方針で計算します. まず 10 進モードなので通常と同じように 170 を入力します.

[1] [7] [0]

論理関数の or を呼び出します.これは OPTN キーから 呼び出します.

[OPTN]

メニューが表示され,or が 4 番であることがわかるので [4] をキーインします.

[4]

これで液晶上部の式部分に '170or' まで入力されているはずです. 次に 10 進モードで 2 進表記の数値を入力します.現在の基数(10) と異なる基数の表現の数を入力するには,数字の前に基数を 示す記号を入れます.これも OPTN 機能から呼び出せますが, カーソルキーの下を押した 2 ページ目にあります.

[OPTN] [↓]

2 進表記を示す b が 3 番であることがわかるので [3] をキーインします.

[3]

1111 を入力して答えを求めれば終わりです.

[1] [1] [1] [1] [=]

全部で 15 ストロークでした.

この機種は 10 進モード中に一時的に 2 進で数値を 入力することや,その逆を行うことができます. 今回の例題のように 10 進で表示されている数値に 対して 2 進に変換することなく 10 進と 2 進が 混在した論理演算を行うことができます.この機能は IP アドレスの計算で使います. 桁数も 2 進モードで 32 bit まで使えるように 拡張されたので安心できます. 計算結果の数値を 1 キーで 10 進,2 進,16 進などに 即座に切り替えられるのも特長です.これはフラグなどの 数値を 2 進,16 進にぱっと切り替えて確認できるので便利ですね.

本機は通常のモードで電卓を使っている状態からだと 2進,論理演算を使うには一番最初のメニューに戻って n 進計算モードに入らなくてはいけません. また,論理演算がキーに割り当てられておらず, メニューから選択しなければいけない点も使いづらく, 覚えにくいです.このような点から最初は使いづらい かもしれません.しかし,確かにこの機能を使う時は IP アドレスやフラグなど,コンピュータ内のビットを 相手にしているわけで,三角関数や log を計算する 状況ではないので別モードでよいと判断したのでしょう.

情報系では,単純に10進数を2進数に変換したいだけ, ということも多いと思います. 本機ではまず電卓を n 進計算モードにしなければなりません. また,変換したい数を 10 進でキーインしただけの状態では 変換が出来ません.[BIN], [HEX] などの基数変換を行う 前に [=] を押して数値を下ラインに表示させる 必要があります. これが慣れないとちょっと分りにくいし 一手間かかります.

統計機能を利用する例題

カシオ機の愛用者から高く評価されている統計機能です. 表計算ソフトのようにグラフィカルにデータを入力することが出来ます. 解像度が上がり利点がさらに強化されました. 個々の例題を計算していきましょう.

1変数統計演算の例題

今回の例題のように同じ値のデータが多く現れるときは計算開始前に セットアップメニューで Frequency (度数)入力機能を ON にします.キー系列は以下の通りです. メニューが日本語で表示されるので覚えやすいです.

[SHIFT] [SETUP] [↓] [2] [1]

ここまでは最初に 1 回だけ行う操作なので今回のキーストローク数には含めません.

統計計算モードに入るには以下のキーを打ちます. 本機の場合,統計計算モードから出た時点で統計データは クリアされています.そのため統計メモリのクリア処理は不要です.

[MENU] [4]

1 番の 「1変数統計」を選びます.

[1]

入力したい数値,イコールキーの順に入力していきます. 最初に度数を無視して出現した x の値だけ入力していきます. FREQ 欄には自動的に 1 が入ります.

[0] [=] [3] [=] [4] [=] [5] [=] [6] [=] [7] [=] [9] [=] [1] [0] [=]

次に FREQ 欄の入力に移ります.最初のデータの FREQ 欄に移動するには

[↓] [→]

と入力します.1 個より多いデータが入っている欄の FREQ 数を 入力していきます.

[↓] [↓] [4] [=] [6] [=] [5] [=] [2] [=] [↓] [3] [=]

入力が終ったら[AC] を押します.

[AC]

これで統計エディタモードから統計計算画面に移行します. この画面で入力データから計算された 各種統計データを確認することができます. [OPTN][3] で一覧の形で呼び出せます. ここでも本気の解像度の高さが大活躍です.

[OPTN][3]

平均値は一番上の x として表示されています.

合計 38 ストロークでした.

2変数統計演算の例題

統計計算モードに入るには以下のキーを打ちます. 本機の場合,統計計算モードから出た時点で統計データは クリアされています.そのため統計メモリのクリア処理は不要です.

[MENU] [4]

2 番の y=a+bx (2変数(x,y)一次回帰計算) を選びます.

[2]

カーソルキーを動かしながら xy の値をセットで入れることもできますが, イコールキーを押すと下のカラムに移動することを利用して, 最初に x の値だけを全部入力してからカーソルを戻して y の値を入力するほうが速く入力できます.

[1] [.] [5] [=] [2] [.] [1] [=] [9] [.] [3] [=] [0] [.] [9] [=] [5] [.] [5] [=] [4] [.] [2] [=] [7] [.] [1] [=] [1] [.] [1] [=]

カーソルを y の先頭に戻して y の値を入力していきます.FREQ 欄はデフォルトの 1 のままです.

[↓] [→] [1] [.] [2] [=] [1] [.] [9] [=] [8] [.] [7] [=] [1] [.] [2] [=] [6] [.] [1] [=] [3] [.] [8] [=] [6] [.] [7] [=] [0] [.] [9] [=]

入力が終ったら[AC] を押します.

[AC]

これで統計エディタモードから統計計算画面に移行します. この画面で入力データから計算された 各種統計データを確認します. [OPTN]の[3]版に「回帰計算一覧」があります.

[OPTN] [3]

相関係数は r= で表示されている値です.

合計 72 ストロークでした.

本機の統計演算の入力は 表計算ソフトの形式で 4 行ほどのデータが一度に見える方式 なので直感的に操作しやすく, キーストロークで測れない快適さがあります. カーソルキーでの移動操作などはキーストロークが多くても 問題ないからです.

今回のようなテストでは表に現れませんが, データを入力し間違えた時の修正がやりやすいのも 利点です.実際に使う時には入力ミスがあったときの 操作のやりやすさ,わかりやすさも重要です.

ただ,どのキーで統計エディタを抜けて統計計算画面に行くのか,([AC]を押す) 逆にデータを修正する場合に統計計算画面からどうやって統計エディタに戻って 来るのか([OPTN]から「統計エディタ」を選ぶ, 統計計算の種類によって番号は違う), というモードの変更が分りにくいです.

2 変数のデータの入力を x, y のセットで入れて行くと 入力が遅くなるのはどうにかならないかと思います. イコール以外のキーを使って x, y の順に素早く入れられるような入力方法があるといいと思います.

総評

本機の最大の魅力は細かくなった画面表示です. 日本語やアイコンで表示されるメニューなど 初心者ほど恩恵を受ける改良だと思います. 小さな不満点はキー間の印刷が見にくいことと価格が 少し上がったことぐらいです.[log□] が裏に回ったのも情報理論の分野では残念です.

それ以外の機能は以前からのカシオ機 fx-375ES を引き継いでいます. せっかくの高解像度画面なのに「式通り入力」での本機は log や sin の引数に強制的に括弧が挿入されます.この点はまだ シャープの EL-509M のほうがより教科書の書き方に近く,好みです.

2進,論理演算はとっつきにくく,統計機能は使いやすいという キャラクターです. fx-375ESからちょっと高価になりましたが,初めて関数電卓を 使う理系の学生にこそお勧めできる機種だと思います.


Updated in September 20, 2018, Yamamoto Hiroshi Web