カシオ fx-375ES

機種の説明

fx-375ES

2012年12月発売.「式通り入力」が可能,2 進, 16進数や論理演算が可能で統計機能も持つ機種で 2000円程度 で手に入れることができるので,学生に推奨できる機種です. シャープ EL-509M が同等の機能,価格のライバル機となります.

デザインは日本の関数電卓の雄,カシオが長い年月をかけて 確立した関数電卓らしいもので安心感があります. ライバルのシャープ EL-509J に比べて薄く,少しだけ小さいので 携帯性も良好です.全体に丸みをおびていて下のほうが少しだけ幅が小さくなっています. そのためでしょうか,片手で持った時にとても良く手に馴染みます. 操作性も文句無く,特にシーソー式の十字キーは「式通り入力」モード において上下左右にカーソルを移動させる時の操作性が良いです.

ただ,各キーの遊びが大きすぎます. キーがバラバラに微妙に斜めを向くので高級感を損なってしまっています. 操作には全く支障が無いので見た目だけの問題ですが.

キーアサインについても一般的によく使われるキーが 表(SHIFT を押さずに入力できる) にあります. 情報理論で多用する [log□]が表にあるのが嬉しい.

残念なのはメモリーに記憶させる機能の [STO] が独立キーではなく [SHIFT] を先に押して呼び出す機能になっていることです. 初心者はそもそもメモリーを使うことにハードルを感じているようなので, メモリーの使用方法は少しでも簡単であるほうが良いです.

それでは例題を計算してみましょう.

以下のキーストローク表記では 各キーの上に黄色で印刷された機能を呼び出すキーを [SHIFT] と表記します. [SHIFT] キーの後に表記されるキーの名前は キーの表面に書いてある文字ではなくその機能名で表記します. つまりキーの上に黄色で印刷されている文字を表記します. 例えば [STO] は RCL が表面に印刷されている キーの上に黄色で印刷されている機能なので, STO のキー入力は [SHIFT] [STO] と表記します.

log を使用する例題

まず手順 1. です. log に与える数をあらかじめ逆数で入力する,
(1/3)log23 + (2/3)log23/2
の式を計算します. 1/3 や 2/3 の括弧と乗算記号が省略できるので入力は

[1] [■/□] [3] [→] [log□] [2] [→] [3] [→] [+] [2] [■/□] [3] [→] [log□] [2] [→] [3] [■/□] [2]

メモリー A にストアします.

[SHIFT][STO] [A]

手順 2. はこれと同様ですが,第一項の log の 真数(5/4)の分母から抜けるのに[→] を一回,括弧から抜けるのにもう一回押す必要があるので こちらのほうが 1 ストロークだけ多くなります.

[4] [■/□] [5] [→] [log□] [2] [→] [5] [■/□] [4] [→] [→] [+] [1] [■/□] [5] [→] [log□] [2] [→] [5] [SHIFT][STO] [B]

レギュレーションに従って メモリー A に 4/3 を掛けたものとメモリー B に 1/4 を掛けたものとの 和をとれば完成です.積記号を省略できるので入力は以下のようになります.

[3] [■/□] [4] [→] [RCL] [A] [+] [1] [■/□] [4] [→] [RCL] [B] [=]

合計 61 ストロークになりました.[log□] キーが表にあるので快適です.

この操作での [RCL] はマニュアルに従えば [ALPHA] を使うのが正しいのですが,私は メモリ書き込みは [STO],読み出しは [RCL] というペアで統一し, [ALPHA] は第二のシフトキーとして使用するインターフェースのほうが 分り易いと考えています.それに基づいて [RCL] を使っています.

2進,論理演算を使用する例題

本機の場合,10 進以外を扱うには一番最初に BASE-N モードに入る必要があります.以下のキーを入力します.

[MODE] [4]

画面中段右に Dec (10進)と表示されているのを確認ます. 10進以外であれば DEC キー(表面に x2 が印刷されているキー)を押すと 10 進モードになります. 今回は入力も出力も 10 進なので最初から最後まで 10 進モードで 計算を進め,途中で 2 進で数値を入力する方針で計算します. まず 10 進モードなので通常と同じように 170 を入力します.

[1] [7] [0]

論理関数の or を呼び出します.これは BASE キー(表面に 3 が印刷されているキー)から 呼び出します.

[SHIFT] [BASE]

メニューが表示され,or が 2 番であることがわかるので [2] をキーインします.

[2]

これで液晶上部の式部分に '170or' まで入力されているはずです. 次に 10 進モードで 2 進表記の数値を入力します.現在の基数(10) と異なる基数の表現の数を入力するには,数字の前に基数を 示す記号を入れます.これも BASE 機能から呼び出せますが, カーソルキーの下を押した 2 ページ目にあります.

[SHIFT] [BASE] [↓]

2 進表記を示す b が 3 番であることがわかるので [3] をキーインします.

[3]

1111 を入力して答えを求めれば終わりです.

[1] [1] [1] [1] [=]

全部で 17 ストロークでした.

この機種は 10 進モード中に一時的に 2 進で数値を 入力することや,その逆を行うことができます. 今回の例題のように 10 進で表示されている数値に 対して 2 進に変換することなく 10 進と 2 進が 混在した論理演算を行うことができます.この機能は IP アドレスの計算で使います. 桁数も 2 進モードで 16 bit まで使えるので安心できます. 計算結果の数値を 1 キーで 10 進,2 進,16 進などに 即座に切り替えられるのも特長です.これはフラグなどの 数値を 2 進,16 進にぱっと切り替えて確認できるので便利ですね.

本機は通常のモードで電卓を使っている状態からだと 2進,論理演算を使うには一番最初のメニューに戻って BASE-N モードに入らなくてはいけません. また,論理演算がキーに割り当てられておらず, メニューから選択しなければいけない点も使いづらく, 覚えにくいです.このような点から最初は使いづらい かもしれません.しかし,確かにこの機能を使う時は IP アドレスやフラグなど,コンピュータ内のビットを 相手にしているわけで,三角関数や log を計算する 状況ではないので別モードでよいと判断したのでしょう.

情報系では,単純に10進数を2進数に変換したいだけ, ということも多いと思います. 本機ではまず電卓を BASE-N にしなければなりません. また,変換したい数を 10 進でキーインしただけの状態では 変換が出来ません.[BIN], [HEX] などの基数変換を行う 前に [=] を押して数値を下ラインに表示させる 必要があります. これが慣れないとちょっと分りにくいし 一手間かかります.この機種を持っている学生も, 結局はちょっとした基数変換をする目的には使わなかったと 言っていました.

統計機能を利用する例題

カシオ機の愛用者から高く評価されている統計機能です. 表計算ソフトのようにグラフィカルにデータを入力することが出来ます. 個々の例題を計算していきましょう.

1変数統計演算の例題

今回の例題のように同じ値のデータが多く現れるときは計算開始前に セットアップメニューで Frequency (度数)入力機能を ON にします.キー系列は以下の通りです.

[SHIFT] [SETUP] [↓] [4] [1]

ここまでは最初に 1 回だけ行う操作なので今回のキーストローク数には含めません.

統計モード(STAT モード)に入るには以下のキーを打ちます. 本機の場合,モード選択から STAT モードに入ると統計データは クリアされます.そのため統計メモリのクリア処理は不要です.

[MODE] [3]

1 番の 1-VAR を選びます.

[1]

入力したい数値,イコールキーの順に入力していきます. 最初に度数を無視して出現した x の値だけ入力していきます. FREQ 欄には自動的に 1 が入ります.

[0] [=] [3] [=] [4] [=] [5] [=] [6] [=] [7] [=] [9] [=] [1] [0] [=]

次に FREQ 欄の入力に移ります.最初のデータの FREQ 欄に移動するには

[↓] [→]

と入力します.1 個より多いデータが入っている欄の FREQ 数を 入力していきます.

[↓] [↓] [4] [=] [6] [=] [5] [=] [2] [=] [↓] [3] [=]

入力が終ったら[AC] を押します.入力データから計算された 各種統計データを呼び出すには STAT メニューを呼び出します. ここまでのキーは以下のとおりです.

[AC] [SHIFT] [STAT]

平均値を求めるには 4: Var ,2: x イコールを順に押します.

[4] [2] [=]

合計 41 ストロークでした.

2変数統計演算の例題

統計モード(STAT モード)に入るには以下のキーを打ちます. 本機の場合,モード選択から STAT モードに入ると統計データは クリアされます.そのため統計メモリのクリア処理は不要です.

[MODE] [3]

2 番の A+BX (一次回帰) を選びます.

[2]

カーソルキーを動かしながら xy の値をセットで入れることもできますが, イコールキーを押すと下のカラムに移動することを利用して, 最初に x の値だけを全部入力してからカーソルを戻して y の値を入力するほうが速く入力できます.

[1] [.] [5] [=] [2] [.] [1] [=] [9] [.] [3] [=] [0] [.] [9] [=] [5] [.] [5] [=] [4] [.] [2] [=] [7] [.] [1] [=] [1] [.] [1] [=]

カーソルを y の先頭に戻して y の値を入力していきます.FREQ 欄はデフォルトの 1 のままです.

[↓] [→] [1] [.] [2] [=] [1] [.] [9] [=] [8] [.] [7] [=] [1] [.] [2] [=] [6] [.] [1] [=] [3] [.] [8] [=] [6] [.] [7] [=] [0] [.] [9] [=]

データ入力モードを終えて STAT メニューを出します.

[AC] [SHIFT] [STAT]

相関係数は 5:Reg (回帰演算)サブメニューの 3: r を選びます. 最後にイコールキーを押して値を表示させます.

[5] [3] [=]

合計 75 ストロークでした.

本機の統計演算の入力は 表計算ソフトの形式で 3 行ほどのデータが一度に見える方式 なので直感的に操作しやすく, キーストロークで測れない快適さがあります. カーソルキーでの移動操作などはキーストロークが多くても 問題ないからです.

今回のようなテストでは表に現れませんが, データを入力し間違えた時の修正がやりやすいのも 利点です.実際に使う時には入力ミスがあったときの 操作のやりやすさ,わかりやすさも重要です.

ただ,どのキーで STAT エディタを抜けて STAT 演算画面に行くのか,([AC]を押す) 逆にデータを修正する場合に STAT 演算画面からどうやって STAT エディタに戻って 来るのか([SHIFT][STAT][2]), というモードの変更が分りにくいです.

2 変数のデータの入力を x, y のセットで入れて行くと 入力が遅くなるのはどうにかならないかと思います. イコール以外のキーを使って x, y の順に素早く入れられるような入力方法があるといいと思います.

総評

「式通り入力」では本機は log や sin の引数に強制的に括弧が 挿入されます.誤解の可能性が無いという利点はわかりますが, 誤解が起こらないことを最優先として括弧を付ける事で論理的に 単純に定義する,というのは人間寄りではなく計算機寄りの考え方で, 「ライン表示入力」に近いでしょう. パソコンと違って表示桁数も限られているのに省略できる 括弧で桁数を使ってしまうのはもったいないです.

2進,論理演算はとっつきにくく,統計機能は使いやすいという キャラクターです.さすがは実績のあるメーカだけあってキーバインドも いいのでほとんどの理系の学生が選んで間違いない 機種だと思います.2進,論理演算も慣れれば便利に使えます.


Updated in September 7, 2013, Yamamoto Hiroshi Web