OSI 参照モデル第 1 層の物理媒体として様々なものが実用化されてきた, それぞれ以下のような特徴をもっている.表中の数値はそのグループの中で 比較的普及している代表的なものを選んだ.
媒体 | 伝送速度 | 中継距離 |
---|---|---|
無線 | 200Mbps | 100m |
UTP | 1Gbps | 100m |
同軸ケーブル(ベースバンド) | 10Mbps | 500m |
同軸ケーブル(ブロードバンド) | 450Mbps | 300km |
光ファイバ | 1Tbps | 300km |
UTP ケーブルとそれを利用した 通信方式について説明する.
UTP (Unshielded Twist Pair) ケーブルとは 2 本づつより合わされた 導線 4 対が樹脂製の被覆に束ねられたものである(図 7.1) 対になっている導線は「橙」と「橙白」のように 単色のものとその色に白を加えたものになっており, どの 2 本が対になっているか区別しやすいようになっている. 単に導線が 8 本入ったものではないことに注意する.
図 7.1 UTPケーブル
より合わされた対の片方を +, もう片方を - として電気信号を送り,受信側はその 差を信号として読み解る.これにより外部からの電磁波の影響を打ち消す効果がある のと同時に外部への電磁波の漏洩もおさえられる. 高品質の通信が可能な上,柔軟で扱いやすいく,安価であることからイーサネットの 物理媒体として広く普及している.
イーサネットの媒体として UTP ケーブルを使用るすには RJ-45 と呼ばれる コネクタを装着し,PC のイーサネットポートに接続する. 図 7.2 は UTP ケーブルに RJ-45 を 装着した状態である.図7.2に記入してあるようにピン番号が決められている.
図 7.2 RJ-45 とピン番号
PC のイーサネットポートにはこの RJ-45 の各ピンに対応する 端子があり,同じピン番号でよぶ.RJ-45 と UTP を使った通信規格は いくつかあるが,この授業では 100BASE-TX について説明する.
代表的なツイストペアケーブルを使った通信規格を以下にあげる. ケーブルの規格は上位互換となっている.
データリンク方式 | 最大通信速度 | ケーブルの規格 |
---|---|---|
10Base-T | 10Mbps | カテゴリ3 |
TokenRing | 16Mbps | カテゴリ4 |
100Base-TX | 100Mbps | カテゴリ5 |
1000Base-T | 1000Mbps | カテゴリ5e |
10GBase-T | 10Gbps | カテゴリ6,6a |
通信する仕組みは単純で,PC のイーサネットポートの 1番ピンが 送信側 +, 2番ピンが送信側 -, 3 番ピンが受信側 +, 6 番ピンが受信側 - となっている.100BASE-TX では 8 個あるピンのうち 4 個しか使用していない. (1000Base-T 以上ではすべてのピンを使う)このピン配置を MDI(Medium Dependent Interface) と呼び,この配置に従うポートを MDI ポートとよぶ.
ピン番号 | 信号名 | 役割 |
---|---|---|
1 | TD+ | 送信データの + 側 |
2 | TD- | 送信データの - 側 |
3 | RD+ | 受信データの + 側 |
4 | 未使用 | |
5 | 未使用 | |
6 | RD- | 受信データの - 側 |
7 | 未使用 | |
8 | 未使用 |
PC A から PC Bへの送信ができるようにするためには,あるより線対を選んで PC A の送信側 + と PC B の受信側 + を,PC A の送信側 - と PC B の受信側 - が接続されるように結線すればよい.逆方向の PC B から PC A への送信を可能に するにはもう一組のより線対を選び, PC B の送信側 + と PC A の受信側 + を,PC B の送信側 - と PC A の受信側 - を接続する.(図 7.3.)
図 7.3 クロス接続
RJ-45 プラグの各ピン番号とケーブルの色の対応について T568A, T568B という 2 種類の規格が決められている.表 7.4, 7.5 に示す
ピン番号 | 色 |
---|---|
1 | 緑白 |
2 | 緑 |
3 | 橙白 |
4 | 青 |
5 | 青白 |
6 | 橙 |
7 | 茶白 |
8 | 茶 |
ピン番号 | 色 |
---|---|
1 | 橙白 |
2 | 橙 |
3 | 緑白 |
4 | 青 |
5 | 青白 |
6 | 緑 |
7 | 茶白 |
8 | 茶 |
UTP ケーブルの片方を T568A, もう片方を T568B で RJ-45 プラグに 接続すると図 7.3 のクロス接続ができる.これをクロスケーブルとよぶ. 橙のペアと緑のペアが正しく接続されていることを確認せよ. 100BASE-TX では UTP ケーブルの 8 本の導線のうち 4 本しか使用していない.
本質的に通信途中で送信側と受信側を交差させる必要があることは 理解しておく必要がある.この意味でクロスケーブルは UTP で通信を行う様子を理解するにはよいが,実際には 一時的に 2 台の PC をケーブルだけで接続するときぐらいにしか使用されない.
クロスケーブルに対して,ケーブルの両方のコネクタを同じピン同士接続されている ケーブルをストレートケーブルとよぶ.一般的には両端を T568B に従って接続する. ストレートケーブルは,ケーブルを延長するときなどに必要になる.
クロスケーブルとストレートケーブルは外観から区別することは難しい. クロスケーブルとストレートケーブルが混在するのはトラブルの元になるため, 現在では配線はすべてストレートケーブルで行い,送信側と受信側のピンの 入れ替えはハブの機能で行うことがほとんどである.
ハブでの送信側と受信側のピンの入れ替えは RJ-45 ポートのピン配列の工夫で 行われる.対 PC 接続用の一般的なハブのピン配置は以下のように MDI 配置の入力と出力を繋ぎ変えたものになっている.これを MDI-X (Medium Dependent Interface Crossover) とよび,この配列に 従うポートを MDI-X ポートとよぶ. ピン配置を表 7.6 に示す.
ピン番号 | 信号名 | 役割 |
---|---|---|
1 | RD+ | 受信データの + 側 |
2 | RD- | 受信データの - 側 |
3 | TD+ | 送信データの + 側 |
4 | 未使用 | |
5 | 未使用 | |
6 | TD- | 送信データの - 側 |
7 | 未使用 | |
8 | 未使用 |
このピン配置により,ストレートケーブルのみを用いて PC の送信側がハブの受信側に, ハブの送信側が PC の受信側に正しく接続される.
ハブに対してある PC が送信を行うと他のポート全ての送信 ピンにその内容を送信する.これがハブの基本的な動作である. ハブに対して複数の PC が同時に送信することはできない. 複数の PC がハブに対して送信するとコリジョンが起こり, 両方の通信が失敗する.イーサネットが,利用率が極端に高くなると 効率が悪くなる原因の一つである.
一台のハブでは接続 PC 数が足りなかったり, 配線の都合により複数のハブを使って一つのネットワークを形成することがある. これをカスケード接続とよび, この場合,ストレートケーブルと MDI-X ポートでは接続できない.
例えばハブ A から ハブ B へ情報を送信したい場合,どちらも MDI-X ポートにストレートケーブルで接続するとハブ A の送信信号が ハブ B の送信信号ピンに接続されてしまうからである. これを避けるためにはクロスケーブルを用いることもできるが, 上で述べた理由でクロスケーブルを混在させることは避けるべきである.
通常はハブに MDI-X 配置のポートのほかに MDI 配置のポートが用意されており, 片方のハブだけ MDI 配置のポートに接続することでストレートケーブルだけで 正しく接続することができる.
本実習で使用するハブは図 7.4 に示すように 8 番ポートについてだけ MDI ポート (= HUBと表示) MDI-X ポート(X PCと表示) の両方が用意されている. 他のポートはすべて MDI-X ポートである. 8 番ポートの 2 つのコネクタは同じポートの結線違いなので,同時には どちらか片方しか使えない.ハブどうしの接続のときは片方のハブを MDI ポートに接続し,それ以外はすべて MDI-X ポートに接続すれば良い.
スイッチにより一つのコネクタを MDI と MDI-X に切り替えるハブもある. 現在は MDI 配置と MDI-X 配置のどちらが適切かを自動的に判別する ハブが一般的である.このようなハブでは特にピン配置を意識せずに PC, ハブに関わらずストレートケーブルで接続していけばよい.
図 7.4 カスケードポート
今回の実習では 1 班あたり 4 本のストレートケーブルを作成する. コネクタと導線の接続は両端とも T568B に従うものとする. 一本分の材料は図 7.5 に示すように UTP ケーブル 1 本と RJ-45 コネクタ 2 個である.
図 7.5 部品
実習で使用する工具を 図 7.6 に示す.
図 7.6 工具
ハブも各班に 1 台必要となる.ハブと電源も準備せよ.
皮膜の除去
最初に樹脂製の皮膜を除去する.写真の工具を用う. ケーブルの端から 30mm 程度の所に刃を当ててはさみ, 1 回転回して皮膜を除去せよ.
図 7.7 被覆の除去
各導線をのばす
まず,図 7.1のように 2 本づつの 4 対になっていることを確認し, よりを外す.外した導線を表 7.5 のT568B の順にならべてみる.導線を 1 本づつ指で伸ばしてゆく.
図 7.8 線を延ばす
かしめ工具のカッター部分で線をまとめて切断する. 切断する前に導線を順序どおり隙間無く並べること, 被覆から出た導線部分が 17mm 程度の長さであること, 斜めに切断しないことがポイントである. 切断時に導線の切れ端が飛散しないように注意せよ. 切断したあとは導線がばらけないように注意してすみやかに次の 工程に移る.
図 7.9 線の切断
切断した導線をそろえたまま静かにプラグに挿入する.T568B に従って 接続されるように,裏表を間違えないように注意せよ.
図 7.10 プラグへの挿入
導線の並べ間違いなどがなければ次の 2 点に注意しておけば成功する. 図 7.11 は圧着を行った後の写真なのでプラグが被覆を押さえる爪がでているが, この位置まで被覆が来ていることと導線の先端がプラグの先端に届いていること の 2 点である.つまり 被覆のない導線部分の長さが長過ぎてもいけないし短すぎてもいけない. この時点で問題があれば被覆の除去からやりなおす.
図 7.11 確認ポイント
上記工程の確認後,プラグを圧着工具の 8P の場所に,底に当たるまで挿入する. 握り始めるとハンドルが締める方向にしか動かなくなるが,最後まで 締め切ると開くようになる.これで圧着は完了である.
図 7.12 圧着工具
ケーブルが完成すれば教卓でテスタを用いて検査せよ. 図 7.13 のように表示されれば合格である. 班あたり 4 本のケーブルが完成すればケーブル作成は終了である. テスタの電源を切ることを忘れないように注意せよ.
図 7.13 テスタ
作成したケーブル全てについて実際にインターネットに接続する試験を行う.
IP アドレスの設定は前回と同じ設定とし,変更する必要は無い.
まず机から出ている,各PCに接続されているケーブルを外せ. 作成したケーブルでハブと PC を接続する.作成したケーブルはストレート ケーブルなのでハブの MDI-X ポート(8番以外)に接続すればよい. 4 台すべて接続せよ.
この接続試験では実習室の管理者が設置した常設ハブと 各班のハブとのカスケード接続を行う. 今までの実習で PC に接続していた机から出ているケーブルは 実習室常設ハブの MDI-X ポートに接続されていた ストレートケーブルである. カスケード接続を行うためには各班のハブの MDI ポートに接続しなければならない. 机から出ているケーブルのうち一本だけを 8 番ポートの MDI ポート(= HUB と表示)に接続せよ.
正しく接続されれば今まで通りインターネットが利用できるはずである. 確認せよ.
第 4 回課題「UTP ケーブル」 を提出せよ.